有明海異変と諫早湾干拓の関連解明に向けて
初めに
財団法人自然保護助成基金は2003年春、創立10周年を記念して、昨今わが国最大の自然環境問題となっているいわゆる「有明海異変」に関する研究に対して、特別助成を公募し、審査の結果、4件の研究グループに合計1,350万円の助成金を交付した。研究期間2年余を経て、いまここに当財団に提出された4研究の報告を取りまとめ、助成研究論文集として刊行することとした。
この2年の期間中にも、諌早干潟干拓の工事は進行し、完工まであと数パーセントを残すのみとなったが、有明海の異変はさらに深刻さを増している。他方、異変の原因解明はある程度進捗して、多くの開発が複合的に有明海の環境を悪化させてきたところへ、諌早湾干拓が止めをさしたというのが、多数の見解となっている。しかしながらその因果関係は、水門の中長期開門調査が、大方の実施意見にもかかわらず、農林水産省の反対により実現されず、これがネックとなって、最終結論を見出せぬまま、「科学的解明」は膠着状態が続いている。
この間「豊餞の海」といわれた有明海の漁業はますます生産を落とし、先の見えない漁業者は暗澹たる思いで海を見つめている。なんとか早く自分たちの海を取り戻したいという漁業者の願いも、裁判所・公害等調整委員会の「科学的証明不十分」という判決・裁定によって、むなしいものとなっている。 農林水産省がかたくなに拒否する開門調査実施の声が高まるなか、その引き金となることを念じて、当基金はいまこの論文集を関係処方面に配布することとしたい。
2006年3月
財団法人 自然保護助成基金
目次
Ⅰ 人間活動による有明海のリン・窒素・珪素循環の変化
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有明海低次生態系モデリンググループ(Chap1.pdf)
- 柳 哲雄:有明海の環境変化の原因
Ⅱ 有明海北部における表層流の動向と赤潮発生の関係について
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有明海表層流観測グループ(Chap2.pdf)
- 高橋 徹・堤 裕昭・杉山聖彦:GPS搭載漂流ブイを用いた有明海の表層流調査
Ⅲ 有明海・諌早湾の底層環境の変化とそれが底棲生物に与える影響
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有明海・諌早湾底層環境調査研究グループ(Chap3.pdf)
- 松岡数充:諌早湾及び諌早干拓調整池の音波探査
- 松岡敬充・水島康一郎・広瀬雄太:有明海・諌早湾における貧酸素水塊の出現状況(2003-2004年)
- 古本勝弘:底泥の酸素消費および栄養塩溶出に関する実験的研究
- 石賀裕明:諌早湾のセデイメントトラップ試料S9の元素組成の特徴
- 万田敦昌・松岡教充:干拓による有明海の潮流の変化:1940年代と1990年代の比較
Ⅳ 諌早湾干拓事業に伴う「有明海異変」に関する保全生態学的研究
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諌早湾保全生態学研究グループ
- 東 幹夫:諌早湾干拓事業に伴う有明海異変に関する保全生態学的研究(Chap4.pdf)
- 資料1.研究活動報告書(概要)(Chap4Appendix.pdf)
- 資料2.有明海を科学し再生の道をさぐる(Chap4Appendix.pdf)
- 資料3.諌早湾干拓事業が有明海の流動構造へ及ぼす影響の評価(土木学会海岸工学論文集、51、336-340を再録)
- 資料4.干拓堤防締切り後の諌早湾および有明海中央部における二枚貝類の変化(化石、76、90-99を再録)
- 資料5.諌早湾潮止め彼の有明海における二枚貝群集の変化(日本ベントス学会誌、60、30-42を再録)